味噌を仕込むとき、畑の土を触るとき、糠漬けを混ぜるとき——いつも同じことを思う。
自分は今、生きているものと関わっているのだと。
その「生きているもの」の正体が、微生物だった。
長い人生の中で、特に子育ての場面での経験は、科学・化学が万能ではないことを実感させられた。
西洋医学では解決できないことも多く、対処法としての医療とは別の手立て、心身の健康を維持する基本的な考え方と方法を持つことが必要だと実感していった。
当時は、整体や漢方を使うことで、医薬品を極力使わない、食材の選び方など食に気をつける程度で精一杯だった。
子育ても仕事も一段落し、これまでの経験や思考をまとめたり、発酵手仕事や畑作業を始めたり、この世界の本質を思考したりができるようになったのは、ここ10年ほどのことである。
まず、健康の維持について考えると自ずと発酵食に思い至った。
微生物という存在が、暮らしの中心に入ってきたのはそこからだ。
発酵とは何か
発酵とは、食べ物で言えば、微生物が食材を分解し別の何かに変えていく現象だ。
栄養価が上がり、保存性が増し、風味が深くなる。
でも私が発酵に惹かれているのは、その「効能」よりも、100種類の植物が混ざり合い、見えない無数の命が働いて、ひとつの味が生まれるという、その過程の不思議さのほうだ。
味噌や梅干しなど、単品発酵が多い中で、初めて、秋の野菜や果物・穀物・木の葉・実・根など100種類近い植物で作る酵素作りの体験は、この世界の混沌や、自然界の多様性の中で維持され続けてきた地球の、ひいては宇宙の深遠さと不思議を改めて感じることになる。
我々が拠り所とするのは科学ばかりではない。自然界こそが生命の土台であり、その循環に傷をつけないよう、心して生活することが、我々のせめてもの配慮といえる。
全ては微生物の力で成り立っている。
3つの場所で働く微生物
土の中の微生物
庭先の小さな畑で、化学肥料や農薬を使わず作物を育てる実験を始めて正味2年半ほど。
未だ思うような収穫には至らないが、いろいろな気づきがある。
植物の成長は、主に気象と土に委ねられているということ。
土の力は、微生物の働きによること。
そのためには、土を裸にしない――微生物の棲家を整え維持することが要であることを実感している。
落ち葉はその場にそのまま残し、草は地上部分のみ刈り取り、その場に置いていくことが鉄則になる。
それは多様な生物の棲家となり、微生物や昆虫など生物の多様性がバランスをとり、ひいては作物の収穫も可能にする。
畑を耕し、操作を繰り返した種を蒔き、収穫する行為は、自然の循環を分断することに他ならない。
人間の役割は、できるだけ自然循環の邪魔をしないこと、必要な手出しは最小限にすることなど、繊細な感性が求められる。
腸の中の微生物
腸内には約1000種類、100兆個もの微生物が存在すると言われている。
多くは腸内に存在し、人間の健康や免疫機能に深く関わっている。
ここでも、自然循環の邪魔をしないことが最も重要で、それには、添加物などの化学薬品をできるだけ体に入れないことや、腸内の状態をクリーンに保つことが求められる。
特に、食べ物や食べ方は排泄機能に直接大きく影響する。
暮らしの中の微生物
心身の健康を考える時、まずは食生活を整えることが求められるが、食生活の要といえば調味料。
醤油・味噌・酢・みりんなど日本の調味料の多くは微生物の働きを利用した発酵食品である。
これらに塩麹をプラスして5品目があれば、食材のコクと旨みを引き出し、美味しい食卓が整えられる。
特に、塩麹、醤油麹、味噌などは、簡単に作ることができるので、自家製を常備すると、おいしさも格別。
最初に作ったのは塩麹。
塩と麹と湯冷しを混ぜるだけの簡単なものだが、肉や魚介の臭みも消え、柔らかく格段に美味しくなる。
スープや炒め物などの味付けもこれだけで十分。
今では、糠みそを常備し、毎年、梅干し、らっきょう、味噌、野草酵素、梅酵素、秋の野菜果物酵素など季節の発酵手仕事は欠かせない。
我が家は、微生物の力に支えられていると言っても過言ではない。
土の菌と、腸の菌と、味噌の菌。場所は違っても、微生物は同じようにこの世界を支えている。このカテゴリーでは、その見えない存在への理解を、少しずつ深めていきたいと思っている。
